数年前のちょうど今頃おれは外を歩いててそしたら道端に座ってた男性がいきなり目の前に立ち上がった。そして男性は両手を広げ天を仰ぐような姿勢をとると体中を小刻みに動かしながら見たこともないダンスをはじめる。それはほんの数秒のことだったかもしれないけど、あまりのことに呆然となったおれは男性の激しい動きに圧倒されてその場にずっと立ち尽くしていた。そして始まりと同じく唐突に男性はおれの足元に伏し踊りは終わった。白目をむき、口から赤い泡を吐いた。踊りなんかではなかった。


救急車で運ばれていった男性のその後は知るべくもないし、ここでこのような話を出すこと自体が不謹慎であることは承知しているけれど、あれ以来おれは、病気になることと踊ることが生体にとってまったく別の意味をもった営為であるとは思えなくなった。どちらも同じ深みから湧き上がってきて、日常に飼いならされた体にふるわれる暴力にしか思えなかった。


「病気は治すな、経過しろ」「病気になれない体は弱い」「病気は生命力の自然な発露」明治生まれの野口晴哉が創始した、あまりにパンクな、常識を覆すような野口整体を知ったのは、その後のはなし。